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福岡地方裁判所 昭和35年(ヨ)245号 決定 1960年7月07日

申請人 三井鉱山株式会社

被申請人 三池炭鉱労働組合

主文

一、別紙目録記載の物件の内別紙図面黒線を以つて囲む部分につき被申請人組合の占有を解いて、申請人会社の委任する福岡地方裁判所執行吏の保管に付する。

執行吏は三井化学工業株式会社に対し同図面表示の塩倉庫の使用に、また被申請人組合に対し第四項のための使用に必要な限度において右物件の使用を許さなければならない。

二、執行吏は右物件を申請人会社及びその指定する者に使用させなければならない。

三、被申請人組合は同目録記載の物件の内同図面赤斜線表示部分に立入り、またはその所属組合員もしくは第三者をして右物件内に立入らせてはならない。

四、被申請人組合は第一項の物件内に建設された右図面表示のピケ小屋二四棟を収去しなければならない。

五、被申請人組合においては、この決定送達の日の翌日から三日内に右ピケ小屋を除去しないときは、申請人会社の委任した執行吏は右ピケ小屋を収去することができる。

六、申請人会社の委任する福岡地方裁判所執行吏は第一項の保管にかかること、及び第三項の命令の趣旨を公示するため適当な処置をとらなければならない。

七、申請人会社のその余の申請を却下する。

八、訴訟費用は被申請人組合の負担とする。

(注、無保証)

理由

第一、申請の趣旨

一、別紙物件目録記載の物件に対する被申請人組合の占有を解きこれを申請人会社の委任する福岡地方裁判所々属執行吏の保管に移す。執行吏は右物件を申請人会社及びその指定する者に使用させなければならない。

二、被申請人組合は前項記載の物件内に立入り、又はその所属組合員若しくはその他の第三者をして立入らせてはならない。

三、被申請人組合は申請人会社の許可若しくは指示に基かずして第一項記載物件内に立入つているその組合員若しくはその他の第三者を退去させなければならない。

四、被申請人組合は申請人会社の許可若しくは指示に基かないで被申請人組合又はその組合員若しくはその他の第三者が第一項記載の物件内に搬入し又は設置した一切の物件を撤去し、又は撤去させなければならない。

五、執行吏は前各号の命令を公示するため及び前三項の命令に違反する行為を排除するため立札、掲示板等を設置しその他適当な措置を講じなければならない。

第二、当事者間の争議等の経過及び現況

当事者間に争いのない事実および当事者双方の提出した疏明資料によると次のとおりの事実が認められる。

一、昭和三四年八月以降申請人会社(以下、会社という)の第二次企業再建案実施をめぐつて会社と被申請人組合(以下、組合という)との間に激しい紛争が生じ、昭和三四年一二月一五日付で会社の行なつた一二〇〇余名の指名解雇につきその実施およびその撤回を相互に要求して、昭和三五年一月二五日労使互いに工場閉鎖(三池港務所を除く)と全面的無期限一斉ストライキとを敢行して相対峠し来つた。組合の組合員は争議突入当時約一四、五〇〇人であつたがその後脱退者があり、右脱退者が昭和三五年三月一七日三池炭鉱新労働組合(以下、新組合という。)(現在員約五三〇〇人)を結成したため、現在は約九二〇〇人である。新組合結成後まもなく会社と新組合との間に争議を終結して生産を再開する旨の協定が成立したため、会社は同年三月より会社の職制、職員(三池炭鉱職員労働組合に属しストライキはなされていない。)および新組合所属の従業員(以下、新組合員という。)により操業を開始することとし、新組合員も就労することゝなつた。ところで会社は昭和三五年四月一一日組合が会社所有の三川鉱ホツパー及び三池港務所送炭ベルト及びその附帯施設、宮浦鉱の選炭機等を占拠したとし、組合を相手に右施設の所有権に基き本件と同旨の仮処分の申請をし、当庁昭和三五年(ヨ)第一七七号立入禁止業務妨害禁止等仮処分事件として係属した。当裁判所は同年五月四日事件についていわゆる三川鉱ホツパー敷地内への立入禁止、業務妨害排除を含む仮処分命令(以下、前仮処分という。)を発し、さらに会社の申立により右仮処分命令につき同月一〇日執行処分命令(当庁昭和三五年(モ)第六〇二号執行処分事件)を発し、それぞれその頃右各命令正本は組合に送達された。

二、別紙目録記載の各種施設ならびに三池港務所構内敷地は会社の所有に属し、会社は、平常時においては、三川抗、四山坑より採堀された石炭を三川坑ベルトコンベアーを通じ三川鉱選炭場に集め、悪石と精炭とに分類した上、三川鉱ホツパーよりベルトコンベアもしくは三池炭鉱専用鉄道によつて搬出貯炭等を行なつているものである。右各種施設及び構内敷地については会社より再三立退要求がなされているにもかかわらず、組合は他団体オルグの応援を得て組合員相当数を、昭和三五年三月末頃より三川鉱ホツパー周辺に常時配置し、三川鉱ホツパーにおける操業を阻止していたが、六月一〇日現在において、別紙図面のとおり三川鉱ホツパー周辺の空地、同周辺の専用鉄道沿い並びに人車ホーム上にビニール張り木造バラツクのピケ小屋二四棟を構築し、三川鉱ホツパー西側線路上に停車中の人車四輛をピケ小屋代りに使用し、闘争本部、診療所等を設け、常時数百名の組合員および応援団体オルグを配置し、更に北側給水タンク所に一ケ所南側入船橋附近に二ケ所、西側三号桟橋上に一ケ所の見張所を置き、各数名の組合員等を常置させて、新組合員及び職員等の出入を監視し、必要に応じて随時、即時に多数の組合員応援団体オルグを動員出来る態勢を整え、三川鉱ホツパーの操業開始を完全に阻止しているほか、その争議行為の状況は次のとおりである。

(一)  前仮処分物件への立入

組合員は前仮処分により立入禁止を受けているホツパー周辺の土地への立入りを引続き止めない。

(二)  港駅舎に対するデモ

港駅舎はその二階に三池港務所におけるベルトコンベアーおよび会社専用鉄道による列車の運行を全般に司る中央指令室を有し、会社の石炭搬出貯炭業務につき最も重要なる機能を営むところで、職員数人新組合員約五〇人前後が常駐しているところである。

(1) 五月一〇日午後三時二〇分頃より約三〇分間、ホツパー周辺に屯ろしていた組合員およびオルグによるピケ隊二〇〇余名および一〇〇余名の二隊が、この港駅舎周辺を取巻き激しいデモ行進を行ない、内数名は線路側表階段を上り、駅舎内に侵入しようとし、また、数名は階下控所窓ガラス、保護板を取外して控所に侵入したために港駅舎に就労していた職員新組合員等は駅舎内に閉ぢこめられ、そのため会社専用鉄道により港駅より輸送する予定の塩積貨車、薬品輸送タンク車等一四台の輸送が約一時間遅延した。

(2) 同月一一日午後三時過頃前日同様のピケ隊約三〇〇人が、鉄かぶとをかぶり覆面し駅舎を包囲してデモ行ない、一部の者は中央指令室昇降段を上り、二階中央指令室に立入ろうとしたが、会社側係員は中の鉄扉を閉してこの立入を阻止した。さらに同日午後一一時頃ホツパー周辺より、ピケ隊数十名がたいまつを持つて港駅舎周辺をデモ行進した。

(3) 五月二九日午後二時五〇分頃より約一時間ピケ隊約八〇〇名が同日三川鉱ホツパー両側広場にて開催された青年労働者蹶起大会に対し港駅舎よりPR用テープレコーダーによる放送を行なつたことに対する抗議デモを行ない、その際投石等により窓ガラス数枚が破壊された。

(三)  前仮処分執行の阻止

(1) 五月一二日午前九時三〇分頃福岡地方裁判所所属執行吏吉次善十郎、同中村市太郎が右決定の執行のため三川鉱ホツパーに赴いた際約三、〇〇〇名の組合員および応援団体オルグが鉄かぶとをかぶり、覆面をし、腰にあら縄を結びつけ、背に約五〇糎の青竹をはさんだ約二〇〇人を前列にして三川鉱ホツパーを囲んで重厚なピケラインを張り、平穏に執行を為そうとした右両執行吏を迎えた。両執行吏等はロ号塩倉庫前、あるいは組合の用意したバスの中で、会社弁護団、組合弁護団と話合いを続けたが、組合の協力が得られず、已むなく午後五時過ぎ右執行を中止して引上げた。その間組合員等はその数を増し、五乃至六、〇〇〇名に達した。

(2) 五月二〇日午前一〇時頃前同様執行のため、右両執行吏が再び三川鉱ホツパー西側広場(ロ、ハ号塩倉庫前)に赴いたが、組合員等約一、五〇〇名が、うち多数は前回同様のいでたちで、さらに約五〇糎のプラカードを手に手に持って三川鉱ホツパーを取り囲んで執行を阻止する気勢を示し、右両執行吏は、組合側の協力を要望したが、その諒解を得られず、前同様已むなく午後三時頃前記執行を中止して引上げた。

(3) 五月二一日午前一〇時過ぎ、前日に引続き前記執行のため、右両執行吏が三川鉱ホツパー西側広場に赴いた。組合員等約二、〇〇〇人があるものはT字形プラカードを持ち、ある者は旗を持ち、また最前列には前回同様いかめしい服装の者約二〇〇人が四列縦隊で幾組かに別れ各組、長さ六尺の青竹を横に持ち、三川鉱ホツパー周囲に重厚なピケラインを張つて、右執行阻止の気勢を示し、組合は前回同様話合の継続を要求したので話合いをつづけたが、その協力を得ることができないことが明らかとなつたので、話合いを打切り、右両執行吏は執行補助者と共に午後二時半頃及び午後三時半頃の二度にわたり、執行作業のため前進を試みたが、何れも実力をもつてその前進を阻まれた。それ故已むなく午後四時過ぎ警察の援助を求め、現場に待機中の県警機動隊長は組合および組合員等に平和的にピケラインを解く様要請したが、右の間に増員されたピケ隊約三、〇〇〇名は右要請に従わなかつたため、午後四時四〇分頃前記執行は中止せざるを得なかつた。

(四)  ベルトコンベアー上屋の破損及び修理

(1) 組合は会社に断りなく三川鉱ホツパー西側広場を使用して他の団体と共に度々集会を開いた。すなわち、五月一一日午前一一時頃浅沼社会党委員長の激励演説会を開き、組合員数百人が集り、同月一九日午後一時三〇分頃より約二時間にわたり、三池をまもる婦人大会を開催し、主婦会および他団体の婦人ならびに組合員が約三、〇〇〇人集り、同月二九日午後一時三〇分より約一時間総評青年部とともに「ホツパーを死守するための青年労働者決起大会」を開き、各単産の青年婦人約一八〇〇人および組合員多数が集合した。右浅沼委員長の演説会の際、送炭ベルトのトタンのおおいの上に鈴なりに乗つていた組合員等の重みでトタンの上屋が、五米にわたつて破損して下のベルトコンベアーの上に陥没し、そのまゝではベルトの運転不能の状態に立至つた。

(2) そこで、六月二日会社は、被申請人組合に対し、翌三日よりベルト上屋の破損箇所を会社の手により修理工事をする旨を通告した上、六月三日午前一〇時半頃ベルト上屋修理のため、職員四名と三井建設従業員一八名が三号桟橋下により現場に赴こうとしたが、三川鉱ホツパー周囲に約二、〇〇〇名の組合員等がピケラインを張り、貯炭一番線附近に於て、前進して来た組合員等一五、六名に前進を阻止され、ピケ隊代表者が「組合の方で修理する、時期は戦術に関係するから云えない」旨通告し、申請人会社の修理を拒否した。職員等は「会社の施設であるから会社の手で補修する。梅雨期もひかえ、資材も用意して来たから妨害しない様」再三要請したが話合いはまとまらず、重厚なピケラインも解かなかつたので、正午過ぎ前記修理工事ができないまゝ引き上げた。その後現在に至るも右上屋の修理はなされていない。

(五)  会社専用鉄道の運行妨害

六月二日会社は三川鉱ホツパーの西側及び南側に停車中の人車四輛電気機関車一輛及び炭車九輛の引出作業をする旨組合に通告した上、同月三日午後一時一〇分頃前記人車の引出作業のため、会社係員三名が一〇号電車を三川鉱ホツパー南側より進行させたが三川鉱ホツパー周囲には約二、〇〇〇名の組合員等が重厚なピケラインを張り、多数のピケ隊が電車の進行する軌道上に坐り込んで待ち構え、旧正門踏切附近人車上り下り両線に跨り有刺鉄線を張つていたため、その手前で電車の進行は阻止された。すると約一〇〇名の組合員等が右電車の囲りに押しかけ、右電車の進行を全く阻止したため、係員等は午後三時過ぎ人車引出作業を諦めて引返した。

三、右のとおり組合は三川鉱ホツパー周辺の土地を占拠し、会社の石炭の搬出貯炭の業務の再開を完全に阻止しているため、会社は自衛上已むを得ざる手段としてロツクアウトを実施することゝし、六月四日午前一〇時頃組合に対し、社宅組合港務所支部事務所を除く三池港務所全域にわたり六月五日以降争議解決に至る迄工場閉鎖を為す旨並びに組合員に右地域内への立入りを禁止する旨通告すると共に、同日午前八時半頃より前記区域周辺要所要所に右通告と同趣旨の公示文(計一六枚)および掲示文(二枚一組計四七組)をはり、西門、通用門、南門には地上八〇糎の高さに八番鉄線一本を門柱間にさしわたし、東門、四山工場正門、南海岸線出口門を何れも閉鎖し、西門附近内港線、北岸線、通用門附近中央倉庫線、塩業線、北岸線に何れもバリケードを置き、正門より組合港務支部事務所に通じる道路両側に外柵(約一、五米間隔に棒杭を立て、高さ五〇―八〇糎に鉄線を張つたもの)を設けた。もつとも旧正門、北門にバリケードを置くことは何れも組合員等の実力による抵抗にあつて阻止された。

四、組合はその後も前記二記載のとおりの状態で三川鉱ホツパー周辺の土地を占拠してピケを張り、三川鉱ホツパーよりベルトコンベアーあるいは会社専用鉄道による石炭の搬出、貯炭の業務を完全に阻止している。すなわち六月五日午前一〇時三〇分頃会社は三川鉱ホツパー内悪石ポケツトに分類収容した悪石に自然発火の危険があるとしてこれを硬捨場に搬出するため、電車を三川鉱ホツパー北側より進行させようとしたが、前記二の(五)記載と同様多数のピケ隊の動員と軌道内の坐り込みにより阻止され、結局悪石搬出の業務は阻止された。

このように組合は三川鉱ホツパー周辺の土地を排他的に占拠し、同ホツパーを通じての石炭の搬出、貯炭を阻止しているため、四山坑においては、三川坑ベルトコンベアーに通じる五五〇米坑道ポケツト(三〇〇t容量)内に約三〇〇tの石炭が蓄積せられ、坑内において採炭された石炭はエンドレス坑道堅坑により(三川坑ベルトコンベアーによる坑外搬出方法が新設される以前の旧搬出方法である)坑外広場に未選炭のまゝ貯炭(現在約一七、〇〇〇t)されている。三川坑においては坑内第一、二貯炭槽(各八〇〇t容量)に二乃至三〇〇t及び五〇〇tの石炭が蓄積されているのみであるが、三川坑ベルトコンベアーによる坑外搬出は、三川鉱ホツパー並びにそれに接続するベルトコンベアーの操業が出来ないため、三川鉱原動機室と三川鉱選炭機を結ぶベルトコンベアーの下並びに左右の空地に、未選炭のまま野積み(現在約一〇、〇〇〇t)されている。

而も石炭の搬出貯炭が、阻止せられている結果、会社は採炭事業全般にわたり、著しい支障を来している現況にある。

第三、被保全権利(争議行為の当否)

右事実によれば会社は組合に対しロツクアウトをする旨通告すると共に前記認定の諸行為をなし、しかも前記認定の現況においては会社が、ロツクアウト地域を占拠している組合員の立退きを求めに赴けば、組合員の暴力的抵抗に遭うことが当然予想され、会社に右行為を期待することは事実上不可能と認められるので、右通告および、前記認定の程度の事実行為があればロツクアウトは実施されたものとみるべきである。

ところで会社の行つた右ロツクアウトは組合の前示争議行為に対抗して行われたものであることは前認定のとおりであり、そして何ら攻撃的な要素もみられないから、それは適法に成立したといわなければならない。

つぎに、会社の本件ロツクアウトの行使を不当とする要因の存否について考えてみると、組合の本件争議目的が解雇撤回という労働者にとつて最も切実深刻な要求の貫徹に出たものであつて、組合の争議目的として掲げるそれが正当なものであることは疑いを容れないところである。そしてその争議目的を容認し得ないとして会社は本件ロツクアウトに出ているのであるから、該ロツクアウトの当否の判断において右解雇の有効、無効を考慮する余地は存在しないものといわなければならない。

また本件ロツクアウトは新組合結成後になされたものであることは前記認定のとおりであるから、ロツクアウトの行使自体組合の分裂を積極的に意図し、団結権を侵害する違法のものということはできない。

しかしながら、本件ロツクアウトは争議中組合が分裂したという事態において、争議継続中の組合員に対しなされたものであるから、新組合員の操業を目的とする点に違法性があるかどうかについて考えてみると、組合の分裂が、会社の積極的切崩しにより惹起されたというような事実が認められる場合はさておき、当初から正当な手続きに従つて二つの組合が結成されている場合特別利益の供与を伴わない限り、その一方に対し、ロツクアウトを行うことは必ずしも不当とされないし、争議中といえども使用者は操業の自由を有する理に照すと、会社が積極的に組合の切崩しにより組合の団結権に不当に介入したことを認めることができる確たる疏明資料のない本件の場合直ちにそれを違法とすることはできない。

また被申請人は、「会社が強行している本件ロツクアウトは、単なる争議対策としての本来の性格をはるかに逸脱し組合破壊の決定的意図に基くものであり、つまり不当労働行為目的を達成するための決定的手段としてなされたものであるから違法であり保護さるべきでない」と主張するけれども、該事実を認め得るに足る確たる疏明資料はない。

このように、本件ロツクアウトが適法に行われた以上、組合が会社の事業所内で行つている坐りこみは、事業所の不法な占拠として許されなくなり、また会社事業場への立入りも禁止されるものと解せられるから、会社は組合に対し三池港務所の敷地につき、このうち組合の占拠する部分について明渡しを求め、かつこれに立入り、港務所内での会社の業務を行うについて、これを妨害する者に対し、立入禁止を求め得る権利を有し、またピケ小屋二四棟の収去を求め得る権利を有するものというべきである。

第四、保全の必要性

会社は右のとおり、組合に対し明渡および立入禁止を求める権利を有しているところ、

一、前記認定の事実によると、組合は前仮処分の執行を実力を以つて阻止したばかりか、会社のロツクアウトが適法に成立した後現在まで、組合は三川鉱ホツパー周辺の土地(別紙図面中黒線を以つて囲む部分)を前記認定のとおりピケ小屋を設置してこゝに多数の組合員および応援団体オルグを常駐せしめる等の行為により実力を以つて支配し、会社の占有を全く排除し、よつて会社の操業を完全に阻止しているため、会社は石炭の採炭、搬出、貯炭の業務を行うために今すぐ明渡、ならびに組合が、右土地内に搬入設置した物件の撤去を求めなければとうてい業務を行うことができないことが疏明され、争議行為の経過に照し、組合は港駅舎(別紙図面赤斜線表示部分)に将来またどのような妨害が行われるかも知れないことが予想される事実が疏明される。

二、更に、一般的に、准積された石炭は酸化により自然発火を生来するものといえるが、前記認定のとおり搬出不能のため、各坑内貯炭ポケツト内および坑外に野積のまま多量の石炭が集積されているが、右各坑内ポケツト内に集積されている石炭について現に温度が上昇しているところよりして、このまゝ放置すれば、抗内外の石炭に自然発火を惹起し、ひいて人命、資源、設備等に回復し難い損害を及ぼす危険のあることが疏明される。

三、また、会社は現在、新組合員(約五三〇〇人)ならびに職員を就労させ得る態勢にありながら、組合の出炭阻止により採炭も中止せられ、一方新組合員職員等には採炭し得ないにも拘らず支払わねばならない賃銀相当額の損害ならびに右採炭減少(新組合員等全員就労の場合と比較する)により相当額の損害の増加、業界内での信用の喪失により経営上回復し難い損害を蒙る危険性も認められる。

四、更に前示認定の事実状態をそのまま放置するにおいてはそこに暴力行為を惹起せしめる危険性が強く存在することが認められる。

以上の状況に鑑み、本件につき、現在の段階においては申請人会社のため主文第一項ないし、第六項までに掲げるとおりの仮処分をする必要性があるものと解すべきである。

前記の部分以外の部分において明渡を求める必要性ならびに将来の立入の危険を差止める必要性は、疏明が充分ではない。

もつとも自然発火の点について、鉱山保安委員会設置の趣旨に沿つて自然発火の具体的危険のある石炭の搬出に協力する旨組合より会社に申入れのあつたのに対し、会社が右申入を拒否したことが疏明される。坑内外の多量の貯炭につき自然発火の具体的危険の存在する部分の測定が所詮科学的に不能事であることに鑑み、右組合の申入を会社が拒否したことより直ちに坑内外の膨大な貯炭につき自然発火の危険性なしと断定するわけにはいかない。また鉱山保安法ならびに鉱山保安規則の趣旨に照すと、鉱山保安の責任は管理者に最終的に帰属するものと解せられ、鉱山保安監督局による監督あるいは保安委員会による保安上の勧告も必ずしも保安管理者が負担する責任を軽減するものではないから、保安管理の責任を負う会社として鉱山保安上監督局の監督をまたず、独自に万全の策を構じようとするのは当然のことと首肯せられる。従つて、鉱山監督局に報告がなく、保安委員会に意見を求めなかつたからといつて、直ちに鉱山保安上の危険がないものと機械的に判断し、これを以つて前記認定をくつがえす根拠とはなし得ない。

第五、結論

よつて、本件仮処分申請は、前示の限度で理由あるものと認め、保証をたてさせないでこれを認容し、その余の申請は、これを却下することとし、訴訟費用の負担については、民事訴訟法第九二条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 中池利男 野田愛子 吉田訓康)

(別紙省略)

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